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Grand Détour / Tripalium
ウチでは1stも取り扱っているフランスのインスト激情ハードコアバンド、Grand Détour待望の2ndアルバムをやっとこさ入荷です。CRD盤はイタリアのDreamingorilla Records、フランスのDésertion Recordsなど4レーベルによる共同リリース(12''盤はなんと30レーベルによる共同リリース)。元Bökanövskyのメンバーによるバンドということでダークな激情感満載でありながらインストなバンドでして、しかしながらボーカル無しでも魅せる楽曲が素晴らしすぎた前作、さて続くこのアルバムはどうでしょうか。

アルバムタイトルの「tripalium」とはラテン語で三本足の拷問具を意味するらしく、これはフランス語のtravail(労働)という言葉の語源にもなっています(日本でも「とらばーゆ」ていう就職情報誌がありますね。あれの元ネタがフランス語のtravail(トラバーユ)という感じ)。この言葉がフランスに入った当時、厳しく危険な仕事は囚人や奴隷に任されていて、「拷問のように辛い労働」と言う意味合いを込めて定着した言葉というわけ。わざわざこれをタイトルに持ってきたことから、Grand Détourのメンバーの労働観もこれに近いものなのでしょうかね。
ということで、インナーにも書いてあるのですが今作のテーマは「労働」、とのこと。収録されている9つの楽曲もそれぞれが「労働」に因んだタイトルがつけられ、着想を得たであろう出来事や地名、人名、写真、絵画などとともに記載されています。
例えばトラック1については「Demi-chaîne」(半分の鎖)というタイトルに、おそらくですがパリのビセートル病院についての絵画、それに1793年という表記が揃えて記載されています。フランス革命初期に狂人として扱われ鎖で繋がれていた精神病患者たちが、1793年、パリのビセートル病院にて精神科医フィリップ・ピネルにより解放されたという出来事、これが楽曲のテーマなのではないかと思われますね。ピネリはその後、患者たちに治療の一環として作業を与えますが(これは近代にも続く作業療法の始まりと言われています)、一方でフランスの哲学者、ミシェル・フーコーなどはこれに対して、「患者は肉体的に鎖からは解き放たれたが、精神的には返って道徳的抑圧という鎖に囚われてしまった」と批判しています。この返しも含めてのこのタイトルなのでしょう。
また、トラック5の「L'entre deux mers」はフランス人実業家、フェルディナン・ド・レセップス主導のもと行われたパナマ運河開発についての絵画が添えられています。このパナマ運河開発は非常に過酷な環境下で行われ、黄熱病、マラリアなどの熱帯病や雨季の氾濫により失敗に終わり、3万人近くの労働者が命を落としたそうです。
さらにトラック7の「Hayekeynes」というタイトル、これは1928年という表記と添えられた写真から見るに、その論争も有名な経済学者フリードリヒ・ハイエクとジョン・メイナード・ケインズ、この二人の名前を併せた造語でありましょう。
このように、様々な歴史上の「労働」に関する事柄からテーマを取ってタイトルが付けられています。取り上げるその事例には相反する要素、二面性を内包しているものも多く、ある程度推測は出来るものの、歌詞を持たないインストバンドということもあってその意図を明確に読み解くことは難しいです。が、その点も狙いなのかなと穿ってみたりしつつ、そこにはバンド側からの問題提起と思考を止めるな、という主張を大いに感じます。事実、今作に置いてバンド側はリスナーへ直接の反論と議論を求めています。議論と思考を求めるこの姿勢はGrand Détourがハードコアバンドたる何よりの所以だと思います。

肝心の音について。激情由来の荒々しくも悲哀を感じさせるメロディーと演奏、計算されつくしていながらやり過ぎていないマスロック感、メンバー個々の人間性まで見えてきそうな泥臭さも持っている独特のGrand Détour節は健在。前作と比べるとダークさは少しだけ抜けた感しますが、今作ではその分隙間を充分に意識したリズムの配置っぷりや壮大なスケール感がプラスされていて、いぶし銀的良さが良く出ている印象。同郷のsed non satiata、daitroやaussitot mort、ancre等にも通ずる、美しくも荒々しく壮大な世界観を持つバンドのファンには間違いなくオススメです。

さて今作のアルバムタイトル、「tripalium」の意図は冒頭でご紹介させていただきましたが、この「tripalium」を語源とするフランス語travail、ここからさらに派生した単語として英語のtravel(トラベル、旅ね)があります。交通網もろくに整備されていない時代、「旅」というのは今ほど娯楽的側面はなく、むしろそれこそ拷問にすら近いような辛く苦しいものであったことから、似たように苦痛のニュアンスを内包するtravailが由来とされたとかなんとか。個人的には、拷問(tripalium)を起源とする労働(travail)、それをさらに語源として生まれたtravelという言葉、ここまで無理矢理繋げて今作の裏のテーマとしては「旅」が掛かっているように思えます。
またもインナー情報ですが、そこにはGrand Détourが今までに行ってきたツアーに対する苦痛や労力、失ったものまでが言及されています。
しかし突出して記されるのは、そこで得た人との繋がり。今作のLP盤がわざわざ30ものレーベル、それも様々な国のレーベルによって共同リリースされたのには、バンドが今までに音楽で旅して得たものや繋がった関係性などに対する表現を盛り込みたいという意図を感じます。母国語のフランス語だけではなく、スペイン語、ドイツ語をも使った曲タイトル(バイリンガルだかトリリンガルだかがメンバーに居るだけかもしれんけど)だとか、サンクスリスト冒頭での9ヵ国分の挨拶だとか。まあ大分妄想入ってますが、今作の音からはそんな泥臭い人間性や生活観、人間の温かみも少し感じます。

とまあ、個人的な見解はこんなところ。前作と比較してもバンドとして、そして人間として成長したGrand Détourの今を堪能できる珠玉の作品となっております。是非ご堪能ください。とか言いつつ、前作12''もまだ在庫有るのでよろしければ是非ご一緒に!全9曲収録。

※インナーは別途梱包させていただきます(多分シュリンク包装した後にインナー入れ忘れのミスに気が付いたやつだねコレ)。






・ 型番
DGR 027 (dreamingorilla records)
・ 販売価格

1,000円(内税)

・ 購入数