ドイツのレジェンダリーエモバイオレンスバンド、Louise CyphreのディスコグラフィーLPがついに登場。ジャケの表記では2000-2020とあるけど主だった活動は00年中期頃まででその後はメンバーの居住地や生活、仕事等の関係で活動休止状態に。が、10年以上の時を経て2020年、古巣であるreact with protestが主催するドイツでの激情フェス、cry me a riverが今年ラストを迎えるということでそのためだけに友情の再結成を決め、それを期にこのディスコグラフィー盤も制作されたという感じみたい。バンド名も曲も知っている人は多いと思うんだけど、なんとなく表立って語られることが少ないバンドのような気がしていて、10年以上の時を経てリリースされたこのディスコグラフィー盤によってこのバンドがどう再評価されるのか、非常に興味深いです。
中身の方はバンドの音源としての活動をほぼ網羅しており、意外にも単独作の少ないLouise Cyphreとしてはディスコグラフィーとはいえおそらく初めての完璧な単独12''フルでの作品ということに。多分尺の都合で盤の方には収録出来なかったのであろうデモ音源もダウンロードコード付きということでカバー。楽曲としてはほぼ一貫して凶悪な不協和音、悲壮すぎるメロディー、急制動と爆発を瞬時に繰り返すストップ&ゴーの嵐、独特すぎる伯の取り方とそこから産まれるグルーヴ感、異常なまでの多展開、暴力的な演奏、枯れ感、それを短尺に詰め込みまくった密度の濃さ…挙げれば挙げるほど陳腐だし枚挙に暇がないのだけれど、こういった激情やエモバイオレンスの持つ要素、可能性を全て限界まで凝縮し昇華させてしまった、とんでもない事をやっていたバンド。個人的には今でも完成されたエモバイオレンスの一つの頂点の形だと思っています。よく海外のレビューとか見ると激情とグラインドを混ぜたようなって感じに書かれてるけど、このLouise Cyphreはもうそういうレベルを飛び越えてマジでLouise Cyphreという独自のジャンルをやっていたんじゃないかとすら思う。The apoplexy twist orchestraやLa Quiete、shikariなど名だたるバンドとスプリットをリリースしていたけど、正直当時から頭一つ抜けてた感。また映画好きでも知られるこのバンド(多分バンド名も元ネタそうだよね?)、箇所箇所に挿入されるSEも古い映画のものが多く、ヒトラーとそのファシズムを非難、風刺したチャップリンの「独裁者」や、権威の恐ろしさをフェイクドキュメンタリー形式で描き発禁にまでなった問題作「Punishment Park」などのものが使われている。こういったラインナップからもバンドの思想は見えてくる。歌詞としても哲学的な怒りや問いかけ、皮肉を時にジョーク的な要素も含みながら多く使っていて、単に楽曲が攻撃的なだけではなく確固たる主張を持っていて自分たちをパンクロックだと規定していたその姿勢にも納得。2020年現代に聴く/読んでも考えさせられるものが多くあります。
同梱された分厚いブックレットには歌詞はもちろん、リリース当時の音源の各ジャケのアートワークも網羅。マーチも含めてこのバンドは毒々しいデザインの中にユルさやジョーク感を混じえてくることが多くて、そんなところも大好きだったんだよなあ。ブックレット後半ではツアー写真や、読んでるこっちがこっ恥ずかしくなるくらいのメンバー各々によるLouise Cyphreへのメッセージまで記載。答辞的な感じ?
こういった部分や、冒頭のcry me a riverの為の再結成の話、また当時のインタビューなども読んでみると大きな会場でのライブを嫌いステージのない日本で言うスタジオライブのような形態を特に好んでいたり、何よりも繋がった身近な人々を本当に大切にするような人間味に溢れた人たちのようで、その姿勢にも好印象。が、故に活動はローカル気味になりワールドワイドでの評価に繋がりにくかったのかな、というのもまた一つの印象。本人らは気にしてなさそうだけどね。ぜひこの機会にこの伝説的なバンドのことを知り、読み解いていただきたいです。
今年のcry me a river自体はコロナの影響により流れてしまったようですが、react with protestオーナーlarsによると来年に延期しての開催を画策している、とのこと。2021年のcry me a riverは開催できるのか、そもそもLouise Cyphre出られるのかもまだまだ不明ですが、Louise Cyphre再結成はマジでこのためだけに成されたとのことなのでライブ観るなら本当にラストチャンスっぽいです。ドイツ…旅費…最安値でも20万…うーむ…
全30曲+そのダウンロードコード+デモ6曲のダウンロードコード付き。
密が過ぎる。最高。